ジョルダンの公共交通
Ms. Ruba Abu Ghosh
運輸省
はじめに
ジョルダン・ハシム王国
「ジョルダン」という言葉は力と勝利を意味する。ジョルダンは西南アジアに位置し、1997年の統計によると、面積は89,311 km2、人口は460万人である。ジョルダンの公用語はアラビア語であるが、英語も第二言語として広く使用されている。使用通貨はジョルダン ディナールである。
主要都市は、以下の通り。
アンマン:首都で人口はおよそ174万8,000人(1997年)、面積はおよそ520 km2。現在、ジョルダンの商業および産業の中心。
イルビッド:北部の都市で、人口はおよそ70万8,400人(1997年)。
アル ザルカ:アンマンの東35キロに位置し、人口はおよそ70万8,400人(1997年)。
旅客道路輸送部門の一覧
表
1 道路網の発達(1986年から1996年)年 幹線道路 支線道路 村道 合計
(Km) (Km) (Km) (Km)
1986 2005 879 2134 5018
1987 2325 1533 1428 5286
1988 2396 1606 1525 5527
1989 2548 1626 1691 5865
1990 2521 1664 1822 6007
1991 2550 1676 1898 6124
1992 2660 1810 1900 6370
1993 2765 1862 2051 6678
1994 2820 1899 2137 6856
1995 2877 1976 2289 7142
1996 3031 2044 2483 7558
表
2 国内保有車両の種別(1997年)台数 比率車両の種別
乗用車
182047 61.06%バン
36539 12.26%ピックアップ
25329 8.50%トラック(
5トン未満) 14996 5.03%トラック(
5トン以上) 9273 3.11%バスおよびミニバス
14395 4.83%特殊車両
15551 5.22%合計
298130 100%
ジョルダンの公共輸送部門
ジョルダンの公共輸送部門は、バス、ミニバス、サービス・ タクシー、コール・ タクシーから成る。各サービスの比率は、下記の表3に示したとおりである。
表
3 公共輸送の車両台数車両の種別
バス
807ミニバス
4135サービス・
タクシー 7466コール・
タクシー 9703合計
22111
旅客道路輸送団体
1. 旅客輸送公社(PTC)旅客輸送公社(PTC)は、それまで小規模の個人運営者が担ってきたアンマンの都市輸送供給を組織化し調整するための仕組みの一つとして、1975年に設立された。同社は都市輸送サービスを独占する計画であった。しかし、サービス供給に占める割合は常に低く、需要のわずか20%しかカバーし切れていない(1988年現在)。PTCが供給するサービス量がアンマンの都市輸送需要の増加に対応していないのが実状である。
表
4 PTCの保有車両数バス台数購入年
1976〜1977 188台
1977〜1988 バスの購入なし
1988 241台
1988〜1991 バスの購入なし
1991 ミニバス50台
表
5 車両の運行状況運行地域 |
広域アンマン |
運行時間 |
5 時30分〜21時30分(16時間) |
1日あたりのバス1台あたりの運転手数 |
2 人(1シフト8時間) |
PTC が運行する路線 |
28 路線 |
路線の全長( km) |
374.5 km |
運行可能な車両総数 |
110 台 |
平均運行車両数 |
83 台 |
1 日あたりのバス1台あたり平均運行キロ数 |
226 km |
年間バス1台あたりの運行日数 |
330 日 |
バス1台あたりの推計年間走行キロ数 |
74,000 km |
最大定員( M.A.N.バス) |
最大 80名 |
着席定員( M.A.N.バス) |
32 席 |
平均推定混雑率 |
50 % |
2. 民間の事業者
当然の結果として、営業損失やPTC支援のために州に求められる財政負担が増加したことから、部分的救済策として、PTCのアンマン南東部の路線はミニバスだけを運行する民間部門の運営者に下請けされた。
民間部門が運行するのは75路線で、ミニバスの運行台数は455台である。
3. サービス タクシー
主な特徴は以下の通り。
自家用乗用車で、白に塗装されている。
フロント ドアにルートの目的地・ルート番号・タクシー番号が書かれている。
各車両の屋根には白の「帽子」が搭載されており、アラビア語で「賃走」と書かれている。
サービス タクシーはアンマン市内およびその行政区域で運行している。下記の表6でわかるとおり、貧弱な外観で非常に古い車両を使っている。
表6 「サービス」タクシー車両の経過年数
60 % |
30 年 |
20 % |
15 年 |
20 % |
10 年 |
4. コール タクシー
主な特徴は以下の通り。
自家用乗用車で、黄色に塗装されている。
フロント ドアにアラビア語で、色別でタクシーが運行許可を得ている地域、車が待機する事務所の電話番号が書かれている。
各車両の屋根には黄色の「帽子」を搭載し、アラビア語またはラテン語で「タクシー」と書かれている。
各車両には電子式のタクシーメーターを装備し、タクシー協会の規定に基づいて運賃を計算する。
車内には横広の画面に運転手の写真付き免許書類を掲示し、簡単にみることができる。
公共輸送部門における主要問題
1. 旅客輸送公社(PTC)
PTCは1975年に、広域アンマン地区(GAA)の都市輸送供給を組織化し調整するための仕組みの一つとして、1975年に設立された。同社は都市輸送サービスを独占する計画であった。しかし、サービスの供給に占める割合は常に低く、需要のわずか20%しかカバーし切れていない(1988年現在)。
表
7 購入車両数1976 年から1977年 |
188 台のバスを購入 |
1977 年から1981年 |
バスの購入なし |
1981 年 |
241 台のバスを購入 |
1981 年から1991年 |
バスの購入なし |
1991 年 |
50 台のミニバスを購入 |
このような購入計画の下では、車両の経過年数が増えるに従いメンテナンスの必要性が絶えず増加し続けた。既存旅客車両の67%は購入から既に10年以上経過している(表8)。1年間に大量の車両を購入するという過去の失敗が、循環的なサイクルでの資本劣化を引き起こし、多額の資本支出需要が定期的に生じる結果となった。
メンテナンス費用が上昇し、メンテナンスを担当する組織は複雑化した。メンテナンスの質も次第に低下した。運行可能な車両数がどんどん減り続けたため、同社の収益見通しは低下を続けた。
表
8 旅客車両の経過年数最初に登記が行われた年 |
1996 年時における経過年数 |
公共輸送用 自動車 |
民間の ミニバス |
公共部門の ミニバス |
民間の 標準的なバス |
公共部門の 標準的なバス |
1970 年以前 |
|
1209 |
16 |
1 |
34 |
8 |
70 年〜79年 |
|
3996 |
527 |
11 |
42 |
83 |
80 年〜85年 |
|
4949 |
995 |
312 |
40 |
389 |
86 年〜88年 |
|
1358 |
352 |
349 |
14 |
75 |
89 年〜90年 |
|
165 |
130 |
279 |
5 |
24 |
91 年 |
|
65 |
95 |
96 |
7 |
2 |
92 年 |
|
251 |
309 |
251 |
15 |
3 |
93 年 |
|
300 |
290 |
458 |
17 |
23 |
94 年 |
|
168 |
210 |
129 |
33 |
1 |
95 年 |
|
60 |
141 |
89 |
8 |
40 |
96 年 |
|
1 |
45 |
9 |
0 |
0 |
合計 |
12522 |
2840 |
1984 |
215 |
648 |
当然の結果として、営業損失やPTC支援のために州に求められる財政負担が増加し、次第に耐えきれなくなった。そのため部分的救済策として、PTCのアンマン南路線および東路線はPTCとの契約で、民間部門の運営者に移管された。
民間部門の運営者のほとんどは実際に運営を行わない金融投資家である。これら投資家は1台あるいは複数の車両を購入し、免許を取得した後、実際に運行する乗務員(自営である場合が多い)にリースする。これら車両所有者がまず関心をもつのは、投資収益率である。こういった投資家は(企業オーナーやオーナー運営者とは異なり)専門的な運輸業者ではなく、専門的な経験もない。
専門的な経験を持たないことや、また運賃が非常に安く構造的な誘因が欠けている(規制の枠組みも貧弱で、料金体系も硬直化し、また利用者の参加がない)こともあって、利用者に提供される公共輸送サービスの質や水準は(PTCも民間の運営者も)極めて低い。
そのため、運行体制は極めてずさんで、都市輸送システムというより補助交通システムのごとくである。一般的に、決まった場所にバス停を設置し標識を立てる公式なシステムもなければ、運行間隔を示す最低限の時刻表や路線計画も存在しない。運行基準を監督する効率的な都市輸送監督機関も存在しない。運転手はバスが満員になるまでターミナルに停車させておくのが普通である。バスの出発間隔が定まっていないため、乗客は目的地までの所要時間やその日の予定を正確に決めることができない。
また、路線毎のフランチャイズに守られ、十分なサービス監視体制が存在しないことから、民間部門のバス運営者には、サービスの信頼性や質を向上させようという誘因がない。そのため、メンテナンスが行き届いていない膨大な数の車両がスケジュールどおりに運行されない事態がますます増加し、ピーク時における混雑を悪化させ、ピーク時以外の時間帯にはほとんどサービスが行われないという事態を引き起こしている。
こうした混乱の結果、人口構成からみて不利な立場に置かれた人々の可動性が低くなっている。例えば、
GAAで公共輸送機関を使って移動する女性の数は全体のわずか16%にすぎず、職場への移動は、比較的高額なサービス タクシーに頼らざるを得なくなっている。2.
制度上の責任の細分化我が国における旅客道路輸送の制度上の責任は、極めて細分化されている。主要運輸政策や制度上の問題に対し、全国的な輸送整備を効率よく調整するに足る十分な影響力を持つ省庁はない。法律上、国の総合政策に反映する運輸部門の政策立案の責任を持つのは運輸省である。国の総合政策には国家経済の自由化、全ての分野における民間部門の参入拡大、全ての分野における持続的な開発などを含む。しかし、現実はそうなっていない。現在5つの主要省庁(内務省、公共工事・住宅省、観光遺跡省、財務省、企画省)が、機能上、道路輸送問題に直接関与している。本来運輸省が担当する運輸部門の規制の様々な側面に他の省庁がかかわっている。運輸規制の中で運輸省の担当と明らかにいえるのは、運賃規制である。運輸省が将来の協力関係の効率的な枠組みをうち立てるべく、他の省庁との間に明確な理解を確立することが重要である。
3. 情報源
運輸関連データに関する総合的な情報源は存在しない。各データは異なる部門や部局に散在しており、矛盾した形や相反する形式で保存されている場合も多い。例えば、アンマンにおける登録自動車の一覧によると、公共輸送機関のバスの87%と公共輸送機関のミニバスの50%はアンマンが根拠地となっている。この数字は、実際の運行状況を反映していない。車両の多くはアンマンに登録されている。だたし、運行は他の場所で行われていることがわかる。自動車登録データを運行免許交付データと統合し、統合したデータと運行路線の登録とのリンクを早急に行う必要がある。効率よいバスシステムの能力に関する正確な情報が簡単に得られるデータベースは、町にも政府にも存在しない。
改善策
1. 公共輸送公社(PTC)の民営化
構造的な誘因が欠けている(規制の枠組みが貧弱、料金体系の硬直化、利用者の参加がない)ことから、利用者に提供される公共輸送機関の質や水準は、
PTCも民間運営者も十分とはいえない。 内閣の開発委員会は、最近、都市輸送に関する計画立案・規制・免許交付に対する強力な権限をうち立てるためには、制度的な変更が必要であるとの認識を示し、PTCの民営化とそれに伴うPTAの設立を決定した。ジョルダン政府は、
PTCの民営化を通じて以下の目的の達成を目指している。PTCの民営化により、アンマンの通勤者向けサービスが向上し、運行効率が改善され、設備のメンテナンスも改善すると期待されている。
PTCの民営化と並行して設立される公共交通局(PTA)は、GAAの既存の公共輸送部門を21世紀の地域ニーズに答えるために改革する組織の中心となる。PTAは全国的な公共輸送問題を担当する機関として設立される予定であるが、当初はGAAの公共交通のみを担当する。
PTAが担当するのは、(1)公共輸送関連事項の監視および計画立案、(2)公共輸送の運営およびサービスの規制、(3)ターミナル・屋根付きバス停・駐車施設など公共輸送インフラの整備および運営、の3点である。
PTAは、運営費のすべてを自己の収入からまかなう、財政的に独立した組織として設立される予定である。PTAは公共輸送部門から、免許手数料その他の収入を得ることができる。PTAの運営費には、公共サービスとしての義務を果たすために儲からない公共輸送機関の運営に交付する補助金も含む。
PTAは理事会が統括し、総裁および常勤の管理・技術スタッフからなる事務局により運営する予定である。理事会は運輸大臣が主宰し、運輸省、内務省、財務省、自治省、環境保護公社、アンマン市当局の代表者と、民間からの代表者2名(うち1名はジョルダンエンジニアリング協会、もう1名はジョルダンの大学から選出)から構成される。地方政府や民間部門の利害は、全市町村および民間からの代表者で構成する地方運輸顧問委員会を通じてPTAに反映する。
1996年10月に内閣は、PTCの民営化と並行してPTAの設立を決定した。PTAの設立が急がれたことから、PTAは1997年5月、臨時法により設立され、国会での承認は、必要な場合には適当な修正を経て、後の1997年12月開催予定の国会で行われることになった。またPTCの解散は臨時法とともに発表され、PTCバス路線の営業免許交付は新しいPTA管理下で速やかに開始される予定であった。
その後の政治情勢で、内閣への臨時法の提出は延期され、それに伴い予定も変更された。現在では、
PTAの設立を待たず既存のPTC法を使って路線網の再編成を行った後、できるだけ速やかに路線の営業免許交付を実施する方針である。営業免許の交付は1998年冬に開始の予定で、1年以内に完了の見込みである。
2.
運輸統計データベースの構築運輸統計データベース構築の目的は、(1)運輸省が自らの課題を遂行し、今より効率的に職務機能の調整を行えるようにすること、(2)運輸省が入手可能なすべての情報に簡単にアクセスできるようにすること、である。この作業は、運輸省のスタッフと王立科学協会の2、3名のコンサルタントからなるチームとの共同作業として実施する予定である。
このデータベースは独立したユニットとして運営、管理される予定である。また、経営情報システム(MIS)の一部分でもある。さらに、このデータベースにより、運輸省は運輸問題に関する全データを収集できる立場に立つことになる。
このデータベースは、以下のような要件を満たす必要がある。
運輸省やその下部組織の様々な職務機能やニーズに関連した、交通に関する基本統計を含むこと。
内部および外部の情報源から得た情報を、マニュアルあるいはディスクからデータベースに登録できること。
統計情報は、運輸省内の利用者が簡単にアクセスでき、また容易に解読できるものであること。
継続的な更新が簡単に行えること。
このデータベースには、時系列(データが存在する過去の年からの統計で、年次、可能ならば月次の統計を蓄積したもの)データが含まれ、また運輸部門に関連した他の指標(経済成長、生産など)も含む必要がある。
将来の計画
最近運輸省では、アンマンとザルカを結ぶ軽軌道鉄道システム(LRS)に関するフィージビリティスタディが進められている。日本の海外経済協力基金(OECF)には、環境面にプラスの影響を持つプロジェクトに融資する融資プログラムがある。LRSプロジェクトは電気で運行され、また現在ディーゼル エンジンバスを利用している膨大な数の乗客を得ることができる。その結果、この路線を運行するバスの数は大幅に減少し、対応して、排気ガス汚染を減らすと共に、アンマン・ザルカ間の全路線の交通渋滞を緩和させるだろう。
さらに、LRSの建設により輸送インフラのよりよい利用が実現するだろう。現在はヘジャズ鉄道が、ダマスカスへ向かうアンマン・ザルカ間で週1本列車を運行しているに過ぎない。平均乗客数はおよそ14人で、それにわずかな貨物輸送が含まれる。LRSが建設されれば、1日あたり3万人以上の乗客を運ぶことができる。LRSが経済的にみて、ジョルダンのインフラのより効率的な利用につながるのは明らかである。