6. Morocco Mr. Abdenaim Erramdani
モロッコ アブデナイム エラムダニ氏

 

 モロッコには国営都市交通システムを持つ6つの都市があり、その他の都市は民営の交通機関がある。こうした地理的特徴を持ったモロッコは、ここ10年間で都市間・都市内交通として国営・民営の様々なタイプの都市交通を発展させてきた。たとえば、都市間交通では、国営交通路線を代表とするバス路線網がある。都市内の交通網は民間が受け持つ。カサブランカ周辺を含むメトロポリタン地区は人口約300万を有しており、様々な都市交通の中でもバスが重要である。国営バスと民営バスとで乗客を運んでいる(カサブランカ メトロポリタン地区だけで、国営・民営の交通機関の乗客輸送量は年間1億2300万人に達する)。今日、都市部での人口の集中による混雑を解消する手段として、また、世界各国の既存の交通システムに関する研究の結果としても、都市交通システムとしてのバスに対する需要は増加してきている。営業運転を行っているバス路線の総延長は480kmで、モロッコ国内のカサブランカを初めとする大都市圏で、ラッシュ時の交通システムを担っている。こうした交通機関は、最新の技術と今日までの経験とに基づいて、高い信頼性と効率性を実現している。

 

カサブランカ メトロポリタン地区における交通網の発展
 カサブランカ メトロポリタン地区は、都市圏(40km圏)・居住地区・商業工業地区に分けることができる。都市部の人口は約300万人で、10年ほど安定していたが近年やや減りつつある。

 

都市交通システムの計画
 都市への人口集中の結果、その社会的・経済的役割が拡大し、都市やその周辺地域で交通に関する問題が多数発生している。こうした問題を解決する一方、社会環境の変化に伴うより質の高いサービスに対する要求や多様化にも対応する努力も必要とされている。こうした状況においては、各都市が持つ特定の条件や制限、たとえば市場性や交通システムの路線などに対応しながら、最善の交通システムを選択し発展させていくことが重要である。

 

都市交通が直面する問題点
 モロッコでは都市交通が直面する問題点が数多くある。特に通勤・通学時間帯の慢性的な交通機関の渋滞は深刻である。都市交通システムの機能が不足しているのは明白で、モロッコ政府は交通近代化策としてカサブランカ メトロポリタン地区に地下鉄を計画している。この都市では、バスに代わる新しい都市交通として地下鉄の建設が必要である。

 

計画
 都市交通システムの計画は、その都市の将来の人口増加や経済成長を鑑みて、工業地区の設定など都市の中心的役割を包含する都市計画に基づいて行われるべきである。

 

国営の都市公共交通機関の発達

モロッコにおける国営の都市公共交通機関の発達
 モロッコの国営都市交通は、1960年代に輸送量が低下した。政府当局と各団体は、将来はバス路線が都市交通として有効であるとの理解に基づき、国営公共交通の研究・開発を開始した。1964年、カサブランカ都庁は国内最初の国営バス路線の運営を始めた。その他の都市でも、1965年にタンジェ市、1968年にメクネス市、1971年にマラケシュとフェズ市、1977年にサフィ市、1978年にアガディール市が導入した。

 

都市公共交通の私有化と都市交通の需要を満たす適応性の再構築・再生

 

(摘要)
 交通の需要と供給のバランスを図るため、民間の開発権者による再構築・再生の動きがある。カサブランカ メトロポリタン地区では、このプログラムから大量公共交通システムの実現を目指した将来性のある取り組みが始まっている。

 モロッコのほとんどの都市は、現在の大都市への人口集中とは別の形態で都市が成長すべきであるかどうかの問題に直面している。この点、新しい都市交通は汚染を削減し、よりよい住環境を作り出すと期待される。このプログラムは住民利益のための有望な事業実施・発展の第一歩である。

 現在モロッコ政府は民間資本を都市交通事業に呼び込もうとしている。民間セクターの参加が事業を進展させると考えられるからである。民間の投資が非常に歓迎される例としては、マラケシュでこの6年間にバス路線の公営から民営への所有権の委譲が計画されており、海外企業が選択される予定のケースがある。

 政府や地方自治体も民間の開発権利者による活動を支援している(スペインの企業が70台のバスを購入して17路線を運営している)。タンジェでも、モロッコの企業が運営を行っている。

 公共交通への民間セクターの参入が増えると同時に、交通サービスに投資し運営してきた政府の役割も変化しつつある。公共投資も経済効率のための公共交通の需要や、利用者のニーズにあったものが求められている。

 

都市の土地利用と交通計画
 発展途上国においても都市部で急速な人口増加を経験するにつれ、都市の土地利用と交通計画の統合がますます需要になってきている。交通システムを都市形成に統合するための概念的なアプローチが必要となるであろう。

 計画が行き届いた都市と自然発生的に拡大してきた都市では大きな違いが見られる。よく計画された都市の単位面積あたりの雇用や人口は、無計画に発展してきた都市の6倍から10倍にもなるという。「無計画都市」は人口密度が低いため、夜間は死んだようになっている。交通の要所である都市は、比較的人口が多い。

 都市の中心部や発展が進んだ副都心に人が住むことは、公共交通を発展させる機会をもたらす。のべ輸送人キロは多くの副都心を持つ都市ではより低いからである。人口密度も高い場合には、実現可能な公共交通システムにとって素晴らしい基礎があると言える。

 

アセスメントで地下鉄の可能性を評価
 モロッコ政府は、カサブランカ メトロポリタン地区における中量軌道システムの検討を開始した。中量軌道システムが持つイメージは、最新技術・環境にやさしい・自動車の代替手段・都市の慢性的渋滞の救い主、といったものであるが、その事業の初期段階では計画当局が十分な検討を加えなければならない。

 中量軌道システムの構成要素は何か? 一番の特徴は? 交通システム上のどんな目標を設定するのか? 建設と運用に実際にどれほどのコストがかかるのか? 収入その他のメリットはどのくらい生まれるのか? 建設にはどんなリスクがあるのか? 競合相手は何で、収入と乗車率を確保するには何が必要か?

 こうした疑問が、政府が中量軌道に投資を始める前に検討すべき主な課題である。

 最後に私は、通常の業務以外に時間を割いて積極的に情報や説明を与えてくれた全職員に対し、心から感謝したい。モロッコのJICA事務局職員の方々のご助力にも深くお礼を申し上げる。都市公共交通が抱える無数の問題と解決策に関して、国際的な意見交換を促進するという共通のゴールに向けて、大きなご支援をくださったことを感謝する。

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