7. Peru Mr. Javier F. Pacheco Rahuz
ペルー (リマ) ヤヴィエル F. パチェコ ラグズ氏

序説

 リマは人口750万近くを擁し、その多くが市の中心部を取り巻く低所得者住区に住んでいる。リマが人口40万を超えたのはわずか50年前のことであり、それから20年後には200万近くになった。現在リマには約750万人が住む。人口の増加があまりにも急激で、公共サービスは全市民に行き渡るのには不十分である。明確に区分された5地区(中央・南・北・北東・東)がある。中央地区は整備が進んだ地区で、カヤオ州や旧市街地の政庁、ミラフローレスやサンイシドロのような商業経済地区、そして東地区のような高級住宅街などを含む。残りの地区は低所得者層が居住しその占める割合は高く、公共交通を利用するのはもっぱらこの層である。

 リマ首都圏の道路システムは、図1に見られるとおり、旧市街地を除いて基本的に放射状である。一部環状道路もあるが、未完成となっている。

 この放射状の構造のため、様々な地方から発した輸送の多くが中心部をめざし、乗客を中心部で降ろす形になっている。これによりリマの中心部へ通じる幹線道路、たとえばアバンカイ通り・タクナ通り・アルフォンソ ウガルテ通りなどが非常に混雑する。

 リマの道路網には1,700kmにおよぶ主要道路があり、主に集散道路、補助幹線道路、幹線道路、若干の高速道路、域内道路などが含まれる。管理努力にも関わらず、道路状況は平均的と考えられている。

 道路のレイアウトは優れており、都市部を縦横に横切る幅の広い通りがあるため、大量乗客輸送を効果的に行うバス優先レーンの設定も可能になった。ヴィア エクスプレサと呼ばれる高速道路や、グラウ通り・アルフォンソ ウガルテ通り・ブラジル通り・トーマス マルサノ通りなどがその例である。

 公用・私用の利用がなされる最も重要な路線は、次の通りである。

 

 公的・私的需要のデータ

 リマ首都圏で行われた需要データ調査がいくつかある。最新の調査は1992年に行われたもので、その情報がリマにおけるすべての交通事業の根拠として使われている。1998年にAATEは国際入札を行い、Sogeler & CalとMayor & Ceselのコンソーシアムが落札した。地下鉄網についての補完調査と都市鉄道の目的に関係した92年の調査結果の再検討が行われた。

 1992年の世帯調査に伴う出発地―目的地(OD)調査によると、次のような結果が得られた。

 

公共交通機関による移動の種類
種類
一日あたりのトリップ
割合
原動機なし
600,000
5.8%
徒歩
3,317,251
31.9%
自家用交通手段
1,216,579
11.7%
公共交通機関
5,253,869
50.6%
合計
10,387,699
100.0%

この調査での交通機関利用の内訳を以下の表に示す。

交通機関利用の分類
種類
割合
自家用
18.8%
公共
81.2%
合計
100.0%

目的別利用状況については、1988年のデータがある。

移動の目的
目的
一日あたりのトリップ数
割合
通勤
3,557,096
34.24%
通学
3,168,880
30.51%
家庭からの他目的の外出
2,926,790
28.18%
家庭以外から
735,013
7.08%

 リマ地下鉄網補完調査は1998年5月に完了した。事業の初年度には、リマ首都圏の人口は7,369,445人と推定した。

 この調査によると、今年度の公共交通・自家用交通の交通機関利用需要量は以下のように推定されている。

交通機関利用の一日あたりの需要量
種類
一日あたりの需要量
割合
自家用
2,074,666
18.5%
公共
9,146,874
81.5%
合計
11,221,540
100.0%

上記の補完調査では、1992年の出発地―目的地(OD)調査の分析から、リマで発生するトリップ原単位は住民一人あたり1.5回と推定している。

 

リマ首都圏の交通の現状

 首都としてのリマ首都圏は国内最大の都市圏を持つ。車両の集中も顕著で、渋滞も深刻化しており、交通サービスの質を低下させている。リマ市内の平均移動時間は35分であるが、交通量がピークに達する時間帯では1時間半以上におよぶ運行もある。しかし何にも増して、運転マナーの悪さが最大の原因である。運べる限り大量の乗客を乗せようと運転手はたとえ信号が青になっても何度も停車するのである。リマ首都圏の交通の現状をまとめると次のようになる。

 リマにおける公共交通は80%近くの市民に利用されており、残りの20%はタクシーや自家用車などの私的交通手段を使っている。ペルーでタクシーが私的交通手段と見なされているのは、決まった路線を運行するのではないからである。リマでは一日あたりのべ1125万回の移動が発生している1。すべての移動のうち25%近くが市の中心部を通過し、これがひどい渋滞を引き起こしている。こうした移動はリマ市周辺の衛星都市を出発点とし、多くの場合目的地はリマ市の反対側にある。結果として人々は目的地に到着するまでに少なくとも1時間を費やさねばならず、公害と騒音にさらされ続けることになる。

 市内の公共交通車両は4万3000台と推定される。いくつかの路線を走る様々なタイプの車両からなり、乗客定員もピンキリである。

 統計上は、これらの車両のタイプは乗客定員で分類される。オムニバスとよばれる大型バスは定員30人以上のバスを指す。マイクロバスあるいはクステルと呼ばれる小型バスは、定員16名から30名、さらにコンビと呼ばれるバンは12名あるいは15名の定員である(付録の写真を参照)。

 こうした車両は次のようなシェアで公共交通の役割を担っている。

公共交通における車両の種類
種類
割合
オムニバス
25%
マイクロバス
30%
コンビ
45%

 この表からわかるとおり、旅客車両には大型バスから中型・小型バス、大型・小型バン、乗用車まで、いくつかの種類があるが、コンビと呼ばれるものが一番多い。さらにモトタクシーと呼ばれる特殊な交通機関もあり、これは2名から4名を運べるように改造されたオートバイである。そもそもはジャングルや山岳地のような地方に起源のあるものだが、いまではリマでも作られている。離れた繁華街では非常に利用が多く、その結果数が急速に増えている。

 最後に、自転車は数年前に利用が促進され、数カ所で自転車専用レーンも設置された。自転車は高価であり盗難も多く、さらに自動車や運転マナーの悪さからの危険も大きいので、利用は計画通りには進んでいない。

 

リマ市内の既存の主要都市交通における問題点

 交通機関に使われている車両は非常に古いものが多く、たいていは15年、場合によっては30年使われているものすらあり、大気汚染や騒音が激しい。さらに機械的な故障も頻繁で、多くの交通事故の原因となっている。死亡事故の多くは、公共交通機関の運転に十分な経験を持たない運転者が引き起こすものである。同じ会社内のユニット間ですら競争は過酷で、より多くの乗客を獲得しようと競うあまり信号での遅延や通りでの競争を引き起こしている。

 リマには次のような問題点が指摘できる。

 

首都における都市交通の将来計画

 現在政府当局は、次のような理由からリマ首都圏の交通の改善を最優先課題としている。

  1. 交通の利用者と運行者の双方に補償するため。現在交通渋滞による損失は甚大であり、それ以上に、首都が国内総生産の約44%を担っているということを考慮すべきである。
  2. 生活水準と環境水準を改善するため。自動車が原因の汚染が深刻である。
  3. 都市・公共サービス・諸活動の調和的発展に貢献するため。
  4. 交通の安全を向上させるため。首都圏で起きる交通事故件数が多いため。

 都市交通の問題に対処するために、当局は抜本的な組織改革を実行することが適当と判断している。これは市の運営を担う各機関が協力することにより実現できるはずである。すでに政府組織であるリマ交通審議会が設置されており、交通事業の計画・開発と中期的な事業実施とを担当している。その他の重要な組織としては、道路安全審議会、リマ・カヤオ都市交通プロジェクト(PROTUM)、北部周辺道路プロジェクト、都市電鉄システム(AATEによる)などがあり、これらはすべて交通地域住宅建設省に属している。リマ都庁はバイパスやインターチェンジを数カ所ですでに建設し、今後もさらに建設を続けていく。カヤオ市とも協力してバス路線や信号システムの改善にも取り組んでいる。

以下に交通関係機関とその計画を短くまとめる。

 電気軌道プロジェクトとして知られる「都市鉄道プロジェクト」は、リマとカヤオの電車交通システムの特別プロジェクト自治局(AATE)が行っているもので、1号線の最初の10kmがすでに建設されている(都市鉄道網図と巻末写真を参照)。この区間が商業的にあまり魅力のない区間であるため、現在試験的にだけ電車を走らせている。リマ中心部まで路線を完成させれば利益が上がるのだが、資金がかかりすぎる。そこで地下鉄網補完調査では、既存の施設の当初一時的な補完としてバス路線の利用を提案し(図5)、以下のように段階をふんで最終的に中心部までの延長を目指すとしている。

 第一段階が約3億ドルと非常にコストが高いため、AATEおよび1998年からの地下鉄網補完調査では、商業的運用を開始し利用者にアピールするため、既存施設の補完策としていくつかのバス路線を計画している。都市バス路線図に示したとおり、既存のアトコンゴ駅とホルヘチャヴェス駅から出る3路線があり、これが二つのシステムの間の迅速・安全な乗り換えに必要な機能を持っている。これらのバスは民営であるが、ヴィラ エルサルバドルから歴史的市街地までは1枚の切符で行くことができる。この3路線は次の通りを走っている。

 今ひとつの代替策としては、共通の1路線を使う方法である。すなわち、アヴィアシオン通りのあと、グラウ通り、サンフアン デ ルリハンチョからアイオン通り〜リヴァアグエロ通りとプロセレス デ インデペンデンシア通りを通る。リマック地区へ向かうもう一つの路線は、グラウ通り〜ウィルソン通りとタクナ通りを通って旧市街地を回る。さらにもう一つのメトロバス路線があり、ニコラス アリオラ通りとセントラル ハイウェイを通って、サンタアニタのメトロポリタン市場に至る。

 将来のネットワークには5路線が含まれ、2040年までにネットワークとしての運用が期待されている。

 

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