都市における交通の現状
現在のバンコクの公共交通を以下に示す。
1. バス
主要な交通機関はバスであり、いくつかのタイプがある。これらの大半はバンコク公共交通局(BMTA)が認可し運営を行っている。BMTAは136路線、4,056台のバスを運行しており、そのうち2,862台は普通バスで1,194台が空調付バスである。BMTAの監督下で運行されている民営バスもあり、普通バスと空調付バスが合計1,862台、ミニバスが1,580台、他に街路(SOI)で営業を行う2,371台の小型バスがある。一日あたり平均340万人がこれらのバスを利用している。表1はバスの種類の詳細である。
2. フェリー
チャオプラヤ川では、交通地域省(MOTC)港湾部の免許を受けた民間企業がフェリーを運航している。一方、運河(klong)での運行はバンコク市行政府(BMA)排水下水部が監督・認可している。フェリーは道路を使うより速い場合が多い。ラッシュ時だけは定員超過が顕著であるが、一般にフェリーの便数や定員は現在の需要を満たしていると言える。しかし、快適性・アクセス・乗下船施設や、桟橋の環境は良くない。バスとフェリーの乗り継ぎの悪さがフェリーの利用を妨げているし、安全度も低い。川渡しの料金は2バーツで、エクスプレス ボートや運河ボートは4、5バーツから距離に応じて15バーツ程度である。表2には、1994年から1999年のフェリー利用者数の推移を示した。
3. 通勤電車
通勤電車を運営するタイ国有鉄道(SRT)は、議会が指名した理事長と理事が構成する理事会が管轄している。バンコクと周辺地域を結ぶ交通機関としてのSRTの鉄道の役割は比較的小さなもので、1995年の公共交通利用者の2%にすぎない。それでもSRTは、道路の利用者を分散させる目的で毎日バンコクから放射状に伸びる路線132kmで通勤電車を走らせている。列車の本数は5路線あわせてもラッシュ時1時間あたり12本、乗車定員も合計で20,300人と少ない。
4. タクシー
バンコクで運用されているタクシーには2種類ある。タクシー(セダン)とトゥクトゥクと呼ばれる3輪オートバイである。タクシーとトゥクトゥクは地上交通部(DLT)の商用車両免許局の免許を受けている。新しく免許を受けるタクシーはメーターを付けなければならないことになっているので、メーターのないタクシーの割合は減ってきている。タクシーとして登録できる車両は1500cc以上のガソリンもしくはLPG車で、初回登録から2年以内の車両でなければならず、7年以上は運用することができない。免許タクシーの総数は以前は制限されており、数の増加が安定したがタクシー運用権が売買される結果になった。その数の多さにより交通渋滞がひどくなった。
一部ではタクシーが自家用車の代わりにもなっているが、中心部に集中することと客を求めて流す傾向があることで、渋滞の原因になっている面が強い。表3はDLTが規定しているメーター付タクシーの料金である。
現在約7400台のトゥクトゥクが登録されており、ほとんどが中心部で運行している。利用度は高く、一日あたりのべ15万人を運んでいると推定される。
トゥクトゥクは旅行者にも人気があるが、地元住民も荷物を載せたり、狭い路地や渋滞地区をすり抜けたりするのに重宝している。その数は7,400台に制限されているため、営業圏はプレミアム価格がつくほどである。トゥクトゥクは短距離多目的輸送手段として、また大量交通の隙間を埋めるものとしてのマーケットを持ち、今後も生き残っていくであろう。しかし、性能・安全性の低さと運用範囲の狭さを考えるとその数は増やすべきではない。騒音と排気を減らす必要から、電気自動車を初めとしたより良いデザインを開発中である。新規のトゥクトゥク免許は発行されていない。料金は規定される予定であるが、今は交渉次第である。トゥクトゥクの料金はメーター付タクシーの料金に近くなっている。運行業者によると一日の売り上げは400から900バーツで、運転手は一日200バーツで車両を借りている(運転手が燃料・整備費用も払う)。
5. スカイトレイン(BTS)
BTSと呼ばれる高架式のスカイトレインは、バンコク公共交通システム公社(BTSC)が新しく運行している。BTSは1992年4月9日に委託が始まり、1999年12月5日に運転を開始した。現在Sukhumvit線とSilom線の2路線がある。どちらの路線にも駅が23あり、朝6時から深夜12時まで利用できる。3分から5分間隔の運転で、料金は距離に応じて10から40バーツである。バンコクのBTS路線は、1路線1時間あたり約4万から6万の乗客を運ぶ能力を持っているだけでなく、人口密集地から最短距離の路線を走り、空調が効き座席も十分、遅れは最小限で運行速度も比較的速い。
さらに2002年には、政府企業のメトロポリタン高速交通局(MRTA)が運営する地下鉄(MRT)がバンコクの新しい交通機関となる。中心部の25km2と周辺の87km2をカバーすることになる。
スカイトレインと地下鉄の双方とも通勤客には好評が期待され、BTSCとMRTAが計画するサービスは路線が限られているとはいえ、バンコクのいくつかの交通問題を解決できると思われる。
6. パラトランジット
この他にすでにマーケットを確立した非公式の「パラトランジット」がいくつかある。
都市に見られる主な交通問題
上記表5は、運用されていた公共交通機関が住民のニーズに合っていないため、1972年から1995年の間に公共交通機関の利用者が減る一方で自家用車の利用数が増えていることを示している。主な問題は以下の通りである。
1) 渋滞
道路のキャパシティーが道路空間に対する需要に追いつかないことと道路網の構造が非効率的であることから、需要と供給のバランスが取れていない。渋滞が増加して公共交通、特にバスのサービスが低下している。混雑した道路を利用する交通機関は、時間がかかるし待ち時間は長い、エアコン付バス以外は乗り心地も悪い、と特に中心部での信頼性が低くなっている。バンコクの交通の特徴は混雑と遅延の程度が日々異なることである。これは飽和した交通事情の特徴であるが、たとえば新学期が始まったとか、VIPの車列が通るために通行止めになったとか、交通事故、故障、身動きのとれなくなった交差点、異常に長い赤信号など、特別な事情によりさらに悪化している。
2) 質と量
公共交通機関一般にしてもバスにしても、質と量のいずれもが、交通需要と全交通のキャパシティーとのバランスを目標とする市当局が求めるレベルを満たしていない。ほとんどのバス・フェリー・鉄道車両が古く性能も低いことや、空調の使用が限られていることから、自家用車の利用者にとって公共交通は代替となる魅力はない。自動車やオートバイの所有の増加、渋滞によるパラトランジットの拡大とバスの生産性の低下により、公共交通機関はシェアを失っている。
3) 環境基準と汚染
騒音や排気ガスなど交通が人体に悪影響を及ぼしている。自動車の利用の急激な増加は、特にバンコクで大気汚染と騒音を引き起こしている。科学技術環境省(MOSTE)汚染管理部による調査では、1993年から1994年におけるバンコクの主な汚染問題は、自動車の排気ガスが原因の黒煙とCOxである。歩道に設置された18カ所の簡易大気観測所では、バンコクの多くの地区で大気汚染が危険なレベルに達していることを示している。さらに、バンコクの通りは非常に騒々しい。主犯はオートバイ(多くは騒音を大きくするよう改造している)と、メインテナンスの十分でないトラック・バス・オートバイ(トゥクトゥク)などのディーゼル車両である。日中の騒音レベルは夜間より明らかに高い。騒音レベルの測定はバンコクの主要道路付近の多数で行われているが、その多くが70dBA以上であり、長期に渡ると聴覚に障害がでるレベルである。
4) 交通事故
交通事故は増加の一途である。私有財産・公有財産あわせて年間10億バーツ以上の損失があると推定される。これには金額への換算が不可能な障害・死亡などの人的被害は含まれていない。保健省の統計によると、バンコクだけで1時間に2〜3人が路上で負傷し、毎年国内で約700億バーツの経済的損失が発生しているという。交通事故はタイの死亡原因の第1位であり、驚異的な割合で今も増え続けている。表6は1994年から1998年にかけてのバンコクでの交通事故件数である。
5) 非公式のパラトランジット
近年特に目立つ非公式のパラトランジットは、現在免許制もなく管理されない状態で非常に危険である。オートバイタクシーがヘルメットを着用しないなど多くが安全基準を無視しており、流れの速い車の間を縫って走る場合などは特に危険である。
一般市民を含んだ都市交通の将来計画
現在の公共交通の問題を解決するために、関連の政府当局はいくつかの対策や事業に着手している。公共交通システムのキャパシティーを拡大しその質と効率を改善すること、さらに個人の乗用車の数を減らすと同時に大気汚染と騒音を軽減することを目指している。
1. 特定の種類の車両を減らす為の施策
定員が7名以下の車両や法人が登録する車両など、特定の種類の車両を減らすために、年間の自動車税や車両料金が引き上げられた。現在MOTCは内閣の承認を求めて提出する関連法律の改正をに着手している。このプロジェクトは渋滞の原因となる新しい車両の購入の需要を減らすことを意図している。
2. 政府職員のための自動車サービス提供の促進
個人の自動車利用を減らすため、内務省・教育省・産業省・経済省の職員だけを対象としたオフィスバスの運行センターが提案されている。このサービスを利用する職員はその費用を負担する。現在一日に約7000人がバスを利用している。
3. オフィス交換プロジェクト
自宅とオフィスとの移動距離を短縮するため、政府職員について他の職員と職務を交換することにより、より自宅に近いオフィスを選択する機会が提供されている。このプロジェクトにより公共交通への需要を削減することができる。
4. 空調付バスの購入
BMTAは公共交通の質を改善し一般のニーズに適格に応えるために、2000台の空調付バスを新規に購入する提案を受けた。MOTCはこれを承認し、最終決断の段階にある。
5. 民間セクターの参加
交通機関の運営により多くの民間セクターの参加を求めていく。これにより政府の負担を減らすとともに、ユーロ沁ヤ両を使って新しい路線に空調付バスを走らせる許可を民間に与えて、人々の公共交通の利用を促進する目的がある。
6. タクシーシステム改善プロジェクト
このプロジェクトの目的は、都市部で運行するタクシーの数を増やし、サービス水準を向上させることにある。無線をバンコクのすべてのタクシーに装備することにより、タクシーシステムの効率を上げることも含んでいる。このプロジェクトにより、タクシーによる移動がより快適になり、自家用車の利用を減らすことができる。また、ショッピングセンターや過密地域へのタクシー乗り場の追加設置も進める。
7. 大気汚染・騒音削減プロジェクト
DLTは他の関連政府機関や民間セクターとの協力により、公害問題を改善するための法律の強化とは別に、次のような施策に着手している。
8. 道路網の構造の改善
少なくとも1,400kmにおよぶ道路の新設や改良がBMA、ハイウェイ部(DOH)、公共工事部(PWD)により計画されている。また、これ以外にも高速道・高速交通局(ETA)、DOH、PWD、SRT、BMAにより400〜500kmの道路改良600km近くの高速道・自動車道の建設が予定されている。これにはチャオプラヤ川を横切る橋の新設も含まれている。
9. 事故対策
このプロジェクトでは、運転者の教育・試験・免許手続きの改善、初心者ドライバーに対する仮免許システム、高齢者ドライバーに対する定期的な健康診断と視力検査、酒や麻薬を帯びた運転に対する罰則強化が行われる。また、各交通機関の結節点の改善や、桟橋の安全対策、桟橋の改修も含まれる。
10. 大量輸送促進のための法律強化
現在のタイの交通安全に関する法律は、速度制限・ヘルメット着用・シートベルト着用・飲酒運転・免許システムなど、数々の海外で実施されている交通安全の法律を導入している。近い将来、交通システムの計画・運用・発展の根本的な手続きを規定した公共交通法が成立する見込みである。この法律は効率的な大量交通システムの発展に関係するすべての機関の調整に役立つと期待される。
11. 非公式の公共交通
違法なオートバイタクシーや乗用バンが目立つため、これらに対する政府の態度が甘いように思われる。交通事故保険も運転者の適性検査もなく、乗客は大きな危険にさらされている。そこでDLTは積極策を採って、現在運行中の違法営業者を法制化して免許制にすることにより、これらの車両を規制する枠組みを作ろうとしている。
さらに、パラトランジットの路線を本線・支線に分割するBMTAの計画もある。これにより非合法なサービスに新しい機会を与え、全線を合法的に確実・快適に移動できるようになると期待される。