2. China Mr.Chen Hong
中国 (上海) チェン ホン氏

 

中国における公共鉄道

1.はじめに

 中国政府が1980年代に改革・開放政策を発表して以来、中国経済には多くの変化が起こっている。変化の一部は大都市での人口増大をもたらし、公共交通に対する需要は急速に拡大してきている。地方自治体は住民の生活環境を改善するために多大な努力をしてはいるが、交通問題は直面すべき最も困難な問題としていまだ残されている。

 過去の都市交通政策を分析・研究し、都市交通の発展に関する海外の経験を検証した上で、中国の政策決定者たちは、安定した都市交通システムの構築こそが交通問題の解決であると結論した。安定した交通システムとは、鉄道交通網が骨組みとなり、その他のあらゆる形態の交通機関が組み合わされた、きめ細かく組織化された公共交通システムを意味している。

 このレポートでは、中国、特に上海の都市鉄道交通システムの現状、問題点、将来の計画について述べる。

 

2.現状

 現在、中国本土には4つの都市圏があり、それぞれが独自の鉄道交通路線を持っている。北京は中国で最も早く都市地下鉄システムを建設した都市であり、1969年には最初の路線が運行されている。天津市が1980年に全長7.4kmの地下鉄路線を建設し、その後上海や広州などの他の大都市も地下鉄事業を開始した。

 下の表は中国における都市鉄道交通の計画状況を示したものである。

 

 

 このデータからわかることは、2、3の都市を除いて、省都ですら一つの都市に計画あるいは設計中の鉄道路線は1本しかないということである。中国の大都市の約60%は、公共交通については未だ初期的段階にある。従って近代的な公共交通システムを構築するには、やるべきことがまだまだあると言わざるを得ない。

 

 上海は中国でも最大のメトロポリタンで、人口は1,300万人以上である。1998年の上海統計報告によると、公共交通に対する投資は急速に増えている。1997年の投資額は前年の30%増しであるが、1997年の都市インフラに対する総投資額の3.7%にしか過ぎない。都市インフラ整備の分野で公共交通への投資の割合を拡大することが、都市計画の専門家にとっての急務となっている。

 他の都市と比較して、上海が独自に公共交通を計画したのは早いほうである。上海は1960年代には最初の地下鉄の事業化に着手した。1965年には1つの地下駅と短距離のトンネルが無事完成した。ところがその後約25年間、歴史上の理由から、この事業は休止してしまったのである。

 1986年8月、中央政府は上海の地下鉄1号線の事業を承認し、これが上海の都市鉄道建設の転機となった。10年以上に渡る努力の末、上海は基礎となる鉄道システムの骨組みを立ち上げ、体系的・安定的・効率的な鉄道交通システムの構築へと前進を続けている。

 現在、上海にはすでに運用に入っているものや建設中のものを含めて3つの鉄道事業があり、総延長は約62kmになる。

 こうした路線のうち、地下鉄1号線は街の南北方向の全長21kmの路線で、1995年5月から運用が開始された。2号線の第1期工事は東西に走る全長16kmで、昨年5月に試験運転が始まった。鉄道のパール ラインの第1期・第2期は中央環状鉄道で、総延長は約60kmとなる。パールラインの第1期は、今年10月にも運用が開始される。下の地図は、こうした事業のルートを示したものである。これらの4つの事業が、上海の都心部の鉄道ネットワークの基本的な骨組みを形作ることになる。

すでに完成している鉄道事業の詳細を、下の表に掲載する。

3.問題点

中国の都市公共鉄道交通の問題は、主に次の3点である。

  1. 技術
    1. 基準や規則の未整備
      一般に都市鉄道交通の分野には、研究や実践の不足から国内基準や規則が設定されていない。このため専門家が共通の概念に基づいてえない。
    2. 都市計画の遅れ
      都市計画のレベルも改善が必要である。複合的な条件を軽んじた結果、都市計画自体が延期されたり不正確であったりしたため、多くの鉄道事業が実現しなかったり、やむなくルートを変えたりする。
      また一方で、路線と路線との連絡についての都市計画も強化されなければならない。鉄道網全体が持つべき乗り換え機能に関して以前は研究が行われず、乗客にとっての不便を引き起こしていた。
    3. 機器製造能力の弱さ
      鉄道事業というのは、あらゆる面の科学技術を含んでいる。機器を製造する能力が劣っているため、信号システムや車両などの機器の多くを海外から輸入しなければならない。現在こうした機器の多くはドイツやフランスといったヨーロッパ諸国から輸入している。契約交渉や製造には長い時間とコストが必要で、これが現在の鉄道事業の発展を大幅に制限している。

  2. 環境
    地下の鉄道路線は環境にほとんど影響を与えないため、環境問題はほとんどが地上あるいは高架式の鉄道によるものである。
    1. 景観への影響
      中国は長い歴史を持つ国であるため、歴史的建造物を守り、高架式鉄道が景観に影響を極力及ぼさないように配慮することが、専門家に課せられた重大な課題である。
    2. 振動・騒音・電波障害
      専門家が注目するその他の問題としては、車両が走行することによって生じる振動・騒音・電波障害がある。公共交通機関の多くは居住地区や市中心部を通過するので、住環境を改善するためには振動・騒音・電波障害を抑えることが重要である。

  3. 投資と管理
    1. 地方自治体が唯一の出資者
      公共交通機関の事業には莫大な資金を必要とする。全資金をまかなうのは困難であるが、中国では地方自治体が常に唯一の出資者である。地方自治体は自己の予算だけを使うのでなく、株式や海外コンソーシアムのような外部からの資金も利用するべきである。
    2. 運用コストは高い
      管理経験が乏しいため、運用コストは常に高レベルになっている。一方、運賃も一般大衆にとっては比較的高い。従って地下鉄会社が運賃をこれ以上引き上げるのも難しい。その結果、路線を建設した後までも地方自治体は運用のために多くの金をつぎ込まねばならず、新しい事業に資金を回すことがままならない。このためシステム全体の建設スピードが遅くなってしまっているのである。

 

4.将来計画

 中国国内には人口が100万以上の都市が34あり、そのうち11の都市は人口200万以上である。これらの都市の都市計画によると、約20の都市が都市鉄道の開発計画を持っている。

 その他の市の鉄道事業も加えると、計画総数は90路線、総延長は2,200kmとなり、そのうち523.63kmがすでに具体的な検討を終えて着工を準備する状態にある。1Hあたり投資額が7億元という試算に基づくと、着工予定分の総投資額は3665.4億元となる。

 

 「2010年上海長期目標の概要」に沿って、上海市当局は「公共交通に重点を置く」ことを主要開発政策に据えている。すなわち、交通の流れを改善するという段階から、より快適に移動するという段階へと焦点を移そうというのである。

 概要によると、上海の鉄道建設は全体を3つの段階に分けることができる。

  1. 当初3年間は、地下鉄2号線およびパールラインの第1期を建設し運用に導く。開通路線の延長は62kmとなり、これは上海の人員輸送量の5%相当を担う。
  2. 2001年から2005年の第2段階では、地下鉄2号線およびパールラインの第2期、1号線の北への延長、鉄道シンミン線の建設が行われる。環状線に十字が組み合わされた鉄道網が完成し、市中心部全体をカバーすることになる。開通路線の延長は100km以上となり、上海の人員輸送量の20%を担う。
  3. 最終段階では、放射状の路線と郊外の鉄道が建設され、徐々に鉄道網が強化されることが期待される

 

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