1. Brazil Mr.Luiz Antonio Cortez Ferreira
ブラジル (サンパウロ) ルイス アントニオ コルテス フェレイラ氏


1.サンパウロ都市圏の都市公共交通

 1700万人に近い人口を持つ「サンパウロ 都市圏(以下SPMR)は、世界で3番目に大きい都市圏であり、サンパウロ市を初めとする39市町村を包含している。海には近いものの、サンパウロは標高約823mの台地に位置し、ティエテー・ピニェイロ・タマンデュアテイの各川が地区を分けている。この地区はブラジルの金融・商業の中心であり、商業地区にはたくさんの高層ビルが立ち並び、郊外に住宅地区が広がっている。

 サンパウロは、1554年、アメリカ原住民の居住地にポルトガルから渡ってきたイエズス会の司祭がその基礎を築いた。1500年代と1600年代は、ポルトガルから送られてくる遠征隊が貴金属を獲得するための基地となっていた。サンパウロの経済は、1800年代まで農業に依存していた。この地区にコーヒー栽培が広がったのは1885年頃のことである。第二次世界大戦(1939〜1945)以降急速に産業化が進んだが、1980年代・1990年代には、過密と汚染が進む州都から内陸の新興都市へと産業が流出したため、サンパウロの成長は緩やかになっている。

 国内の自動車台数は1997年から1997年の20年間で260%増加したが、同時期の公共交通機関の輸送力は25%の伸びにとどまっている(STM/SP)。サンパウロ市内の交通渋滞による時間コストと燃料の浪費は、一日あたり620万米ドルに上ると推定されている(IFC/世界銀行)。サンパウロ都市圏には、約500万台の車が集中している。

 SPMRの都市圏交通システム(都市間交通)は、州政府がメトロポリタン交通局「STM」を通じて管轄している。さらに高速鉄道公社(地下鉄)「メトロ」や、メトロポリタン鉄道公社「CPTM」、さらにメトロポリタンバス公社「EMTU」も州の所有である。地域(市町村)のバスシステムは、各市町村が管轄している。

 1997年にメトロが行った最新の出発地―目的地(OD)調査では、SPMRにおける交通事情について非常に興味深い事実が明らかになった。平日は一日あたりのべ3,100万回近くの移動(トリップ)が発生し、その3分の2は自動車によるもので、これが自家用車と公共道路交通で半々に分かれる。20世紀の初めにはメトロポリスの形成に貢献した鉄道は、もはやその地位を失った。現在の公共交通システムは、バス(ほとんどがディーゼル車)と地下鉄網とが担っている。

メトロ--公共交通の大黒柱

 メトロの利用は日交通利用トリップの10%を占めるにすぎないが、メトロのないサンパウロは想像もできない。3路線で総延長50km以上になるメトロは、世界でも最も効率的な地下鉄システムの一つに挙げられている。その性能は利用者のみならず、利用しない人たちからも評価されており、世論調査でも常にSPMR内で最も優れた交通サービスと位置づけられている。

 経済影響評価の専門家が行った最近の調査では、いくつかの興味深い点が指摘されている。メトロが利用できなくなり利用者が他の交通機関、たとえばディーゼルのバスや乗用車に乗り替えざるを得ない状況になったと仮定した場合の影響を推定した。

 大気汚染大気汚染物質が年間11,300トンも余計に排出され、健康への被害が深刻化して医療費が年間2億8,000万レアル増加する。

 燃料消費利用者の80%がバスに乗り替えるとすると、3,000台のバスを増やすことになり、年間約3億7,500万リットルのディーゼル燃料を消費する。これは金額にして1億3,000万レアル、年間590万バレルの石油輸入に相当する。さらに、乗用車についても年間2,000万リットルのガソリンが余計に消費され(年間2,500万レアル)、合計で年間1億5,500万レアルが燃料として消費されることになる。

 運賃値上げ交通渋滞と運行速度の低下によりシステムの効率が悪くなり、これを補うのに年間4億6,000万レアルのコストが必要になる。

 移動時間ムム運行速度が下がるということは、移動に費やされる時間が年間4億3,000万時間増えるということであり、これは10億4,000万レアルに相当する。

 事故の増加ムム事故に巻き込まれる人の数は年間32,000人増え、うち8,000人は重傷、420人は死亡すると考えられる。このコストは年間1億レアルである。

 これらの数字を考えると、金額に換算できない質的な面を別にしても、現在のメトロの運行は年間21億3,000万レアルを節約していることになる。このことはメトロがSPMRにとっていかに重要であるかを雄弁に物語っている。

 サンパウロの公共交通の水準向上にメトロが果たす役割は、複数交通手段との結節方策により、さらに強化される。メトロの駅のうち23の駅にはバスターミナルが設置され、乗り換えが迅速・快適にできる。5駅にはメトロポリタン鉄道との統合施設がある。さらに4駅には長距離バスターミナルがあり、7駅にはパーク&ライド施設がある。

メトロ利用者の内,他交通手段との乗換割合

 1995年半ばから、サンパウロ メトロは、経費(運用経費と管理経費)を運賃収入でまかなえるようになっている。これは年間輸送量が1kmあたり1,460万人という驚異的な地下鉄網の利用度に加え、会社の経営が経費を抑え、特に外注費を削減することに成功していることによる。営業外収入も増え続けている。

 

変化を続けるメトロポリス

 最近10年間に、工業分野の雇用数は29.9%減少しているが、逆に商業(50.9%)とサービス(34.7%)分野では増加している。人口の増加率も減少し、1977年から1987年は年間3.33%であったものが、1987年から1997年にかけては1.66%になっている。SPMRの人口は高齢化が進み、移動のパターンも変化して、新しい違ったニーズが生まれている。

 1967年以来、メトロは10年ごとにSPMR内の出発地―目的地調査を行っている。1997年の調査では、歴史的な傾向が確認された。すなわち、交通機関による移動全体に占める公共交通の割合が減り、自家用車による移動が増えているのである。明らかにこうした変化は、低所得世帯の自家用車の所有が増加するにつれて、公共交通機関の低所得利用者が減っているためである。こうした動向の理由は多様であるが、おそらく自動車の性能が向上し運用コストも安いことと関係があるであろう。明らかに乗用車は公共交通機関より安くて早いのである。

 バスと同じ路線を走る無認可バンの数が増えるにつれ、低所得者がメトロより自動車を利用することが増えた。このことは交通の全体像を劇的に変化させた。SPMRのバスサービスを悪化させ、バスの運行者と交通計画の担当者とに、止めようのないバス利用者の減少という難題を突きつけているのである。

 徒歩による移動は全体の3分の1、平日の一日あたりのべ1,060万人と見られる。1987年から1997年の10年間にほとんど数は増えていないが、徒歩を選択する理由は変化している。非常に高い運賃も主要な理由とならないのは、「vale-transporte(交通券)」制度のおかげである。1986年に法律で定められたこの制度は、低所得労働者を対象とした補助金制度である。自宅から仕事場までの移動に、労働者は賃金の6%以上を費やす必要はない。超えた分は雇用主が賃金期間に必要な交通チケット(クーポン)を提供することになっている(税控除)。

 さらに、SPMR内での学校の配置が改善された結果、学校まで近いから歩くというのが徒歩による移動の主な理由になっている。

 

車が増えると機動力(モビリティー)は落ちる

 外出率は一日に人々がどのくらい外出しているかを示すものであり、平日に住民一人が平均何回交通機関を利用するかで表す。SPMRでは、この数字が1977年から下がり続けている。1977年には住民一人あたり一日1.5回であったが、1997年には1.23回にとどまっている。こうした減少は大量公共交通の利用者に顕著であるが、高所得の自動車ユーザーも機動力を失っていることになる。

 交通渋滞は機動力の減少の原因となっているが、別の要素も関係している。SPMRは、現在、都市構造の大規模な再整理を行っている。サンパウロのビジネス地区にはほとんどの交通機関が集中しているが、1987年から1997年の間に人口が13%も減少した(総人口2千370万人)。同じ10年でSPMR全体の雇用が23.2%も増えているのに、この地区の雇用は1.4%しか増えていない。周辺のビジネス地区が力を付けてきており、商業活動が都市圏全体に広がってきているのである。ショッピング モールの数は驚異的に増え、住民の行動様式に明らかな変化が見られる。性別による外出率の変化の違いも明らかになっている。

 

2.新千年紀にむけた都市交通計画

 めまぐるしい変化と従来からの慢性的問題とは、行政と交通計画の専門家とに難しい問題を突きつけている。州政府の投資能力は短期間であり、市町村も同様である。限られてはいるが、民間の参入も代用となりうる。しかし万能薬ではありえない。

なにもしないでおくと、どうなるのか。

 公共交通に対する「投資ゼロ」というシナリオで、今後20年にSPMRに何が起こるかを知るためのシミュレーションをしてみる。結果は、すでに悪くなっている状況をさらに悪化させるものである。

2020年までに

PITU 2020「都市公共交通統合プログラム」

交通問題を緩和するための統合事業

 これまで見てきたとおり、SPMRの公共交通システムには、抜本的な改革が必要である。サンパウロ州政府は、メトロポリタン交通局(STM)を通じて、PITU2020と呼ばれる投資プログラムを策定した。この目的は次の20年以内にメトロポリスに構造的・効率的交通システムを構築することであり、過密地区では自家用車の利用を制限してその分を集約的な利用で補うことにより、自家用車より公共交通機関が選択されることをめざす。

 

PITU2020は二つ実施策に基づいている。

 

 必要な投資のすべてに慎重な分析が加えられ、提案された政策は、プログラムの中で提案された安定的な財源が運用される限り、州政府の投資能力で実行可能なものとなっている。

 

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